エピローグ:風の余白──語りの輪の外側へ
語りの輪が静かに閉じたとき、
風は、もう問いを運ばなくなった。
それは、問いが消えたのではなく、
問いが“語り手の内側”に還ったから。
愚者は、もう愚者ではない。
けれど、名前を持つこともない。
彼は、語りの中に溶け、
読者の心の中に、静かに灯っている。
この物語は、カードの巡礼だった。
けれど、それは“カードの意味”を知るための旅ではない。
それは、“自分の意味”を見つけるための旅だった。
風は、問いを運び、
問いは、語りを生み、
語りは、読者の中に“響き”として残る。
そして、語りの輪が閉じた今──
その響きは、読者自身の“記憶”となっていく。
愚者が歩いた道は、
誰かの心の中にも、きっとあった。
選べなかった瞬間。
迷った夜。
崩れた安心。
それでも進もうとした朝。
この語りは、誰かの“過去”であり、
誰かの“未来”でもある。
だからこそ、語りは終わらない。
風が止まっても、
問いが言葉にならなくても、
読者の中に、“語りの粒子”は残り続ける。
それは、まにまにの語りが目指したもの──
意味を教えるのではなく、問いを灯すこと。
そして、問いを灯された者は、
いつか自分の語りを始める。
このページを閉じたあと、
読者はもう、ただの読者ではない。
語り手でもあり、旅人でもある。
風は、また吹き始める。
今度は、読者の内側から。
語りの輪の外側で、
新しい物語が、静かに芽吹いていく。
それは、まにまにの語りが残した“余白”。
そして、読者がそこに灯す“風の粒”。
語りは終わった。
けれど、語りは続いている。
これが、魂の物語──
終わりという名の始まりの物語。
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この章が語るものは終わりました──でも、旅路の扉はまだ開かれています。
読んでくれたあなたに、良いことがありますように。