第四章:時の流れと運命──抗えぬ風に身を委ねる
風は、愚者の足元から離れ、空へと昇っていく。
それは、彼の意志では止められない流れ。
時間が動き、世界が変わり、
自分の選択すら、何か大きな力に導かれているように感じる。
愚者は、初めて「自分ではどうにもならないもの」に触れようとしていた。
目の前に現れたのは、運命の輪(X)。
巨大な輪が、静かに回転している。
その周囲には、翼を持つ獅子・牡牛・鷲・天使が座し、
輪の中心には、神秘的な文字が刻まれていた。
愚者はその輪に手を伸ばそうとする。
だが、輪は彼の意志とは関係なく、回り続けていた。
上昇と下降、始まりと終わり──
それらは、彼が選んだわけではない。
ただ、訪れる。
運命の輪は語る。
「あなたの人生は、あなたのものだ。
だが、その流れは、あなたの手では止められない。
だからこそ、流れに抗うのではなく、
その中で“どう在るか”を選びなさい」
愚者は理解する。
運命とは、支配ではなく“共鳴”なのだ。
風が再び動き、愚者は夜の世界へと導かれる。
そこに現れたのは、月(XVIII)。
月は、静かに空に浮かび、
その下には狼と犬が吠え、
中央には、水辺から這い出るザリガニの姿。
愚者は不安を覚える。
「これは、夢か?現実か?」
月は語る。
「見えているものが、すべてではない。
あなたの心の奥にある“影”が、今ここに現れているのだ」
月は、幻想と直感、そして“見えないもの”の象徴。
愚者は、自分の中にある恐れや迷いが、
この世界に投影されていることに気づく。
それは、現実の歪みではなく、
“心の風景”だった。
愚者は、月の光に照らされながら、
自分の中にある“見えない力”と向き合う。
それは、理屈ではなく、感覚。
それは、言葉ではなく、気配。
そして、夜が明ける。
空が赤く染まり、太陽が昇る。
太陽(XIX)が、世界を照らし始める。
愚者は、光の中で目を細める。
その温かさに、涙がこぼれそうになる。
太陽は語る。
「あなたは、夜を越えた。
そして、今ここにいる。
それだけで、十分だ」
愚者は、月の世界で迷い、
運命の輪の前で立ちすくみ、
それでも、太陽の光にたどり着いた。
それは、希望ではなく、確信。
“自分は、ここにいていい”という感覚。
太陽は、祝福の象徴。
愚者は、初めて「自分の存在が祝福されている」と感じた。
この章は、抗えぬ流れと見えない力に身を委ねながら、 それでも自分の在り方を選び取る物語。
運命の輪は、流れを示す。
月は、影を映す。
太陽は、光を与える。
そして愚者は、そのすべてを通り抜けて、
“自分という存在”を、風の中に立たせる。
風は止まらない。
だが、愚者はもう、
その風に吹かれることを、怖れていない。
この章が語るものは終わりました──でも、旅路の扉はまだ開かれています。